何かをプランニングせずにはいられなくなる本/書評「次世代コミュニケーションプランニング」

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本日発売になった高広伯彦氏著の「次世代コミュニケーションプランニング」。発売前日に重版が決定したり、先行販売した一部書店では発売前に1位を獲得するなど、すでに好調を博しており注目度の高い書籍だ。
私は予約が開始された際にすぐに予約したが、珍しくAmazonが発売日に届けてくれたので早速手元にある。
幸いにも電子版でいち早く読む機会を頂き、本が届く前に読み終わっているという不思議な状況なので、早速紹介させていただこうと思う。

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著者は博報堂、電通で主にメディア開発やインタラクティブ・マーケティングなどに従事したのち、Google日本法人にて広告商品のマーケティングやYouTubeの日本における広告セールス導入などを手がけた経歴を持つ高広伯彦氏だ。
現在は「株式会社スケダチ」を立ち上げコミュニケーションプランニングを手がけている。

考えたい人におすすめの本

この本のメインターゲットは広告・PR人とのことだが、もっと幅広い層に読まれるべき本になっているように思う。
なぜなら、「広告とは」「メディアとは」「消費者の時代とは」「クチコミとは」という問いに対して、高広氏がどのように考え、なぜそのように考えるに到ったのかが丁寧に説明されており、多くの人にとって新しい視点を得ることができる、そんな本になっているからだ。
これらのキーワードにちょっとでも引っかかるようであれば、何かしら得ることができるだろう。
私は良い本に出会ったときに、本を読みながら「思考のトリップ」みたいな状態になることが良くあるのだが、この本はまさしくそのようなことが頻繁にあった本で、ヒントがたくさん詰まっている。
高広氏は本のはじめに「この本は今日や明日からすぐに役立つというものではない」と断言しているが、『長期的に得られる「考える癖」をつけるための本として読者のみなさんに提供したい。』と述べている。
この本はまさしく「考えたくなるだけでなく、考えるのが楽しくなる」ものであり、「明日から考え方に変化が生まれる」そんな本なのではないだろうか。
それでは、この本で特に興味深かったメディアの考察の部分を、いくつか引用しながら紹介させていただこうと思う。

メディアはメッセージそのものだ

この本で嬉しい誤算だったのは、メディアの話が第2章を中心に展開されていることだ。広告媒体としてのメディアの考え方はもちろんなのだが、メディアに対する深い理解と新しい視点を与えてくれるものだった。
第2章の中でマーシャル・マクルーハンという英文学者のメディア論が紹介されているのだが、この話がまた面白い。一部を引用しよう。

例えば、テレビ、ラジオ、新聞や映画といったメディアは、それらが流すコンテンツのほうが注目されるが、(コンテンツではなく)メディアそのものも社会に影響を及ぼしていたり、意味を持つのではないかと考え、メディア自体にフォーカスを当てた視点を持とうというのがマクルーハンの主張だった。

マクルーハンは「メディアはメッセージそのものだ」という言葉を残している。
これは、メディアは情報を伝達するだけではなく、メディア自体が何らかのメッセージを持っているというものだ。この考え方は私も大いに頷けるものである。
私は、メディアのあり方として「コミュニケーションハブであることが大切」と以前から考えているのだが、これはメディアが情報の共通理解を生む役割を担っていることをイメージしたものだ。
今後はこれに加え、「メディアがどのような共通メッセージを持っており、どのようなコンテクストを醸成しているか」ということを大切にしていきたいと思う。
もう1つ特に興味深かったのは以下の点だ。

一般的に考えられている、技術が世の中を変えるという「技術決定論」に対し、(情報)技術は社会的なコンテクストの中で選択されて残っていき、そのコンテクストの中での(情報)技術のさまを「メディア」ととらえるという考え方を「ソシオメディア論」という。「それが世の中をどのように変えるか」ではなく、「それが世の中にどのように埋め込まれているか、そしてそれはどのようなさまを見せるか?」という思考法を持っていれば、新しい情報技術やプラットフォームがカンブリア紀の生物並みに次々と生まれるような状況であっても、ブームに煽られることのない「メディア感覚」を持てるはずだ。

「新しい技術によって◯◯が変わる。Facebookによって〇〇が変わる」など、技術やサービスを中心に考えがちだが、それらの技術やサービスが「世の中にどのように受け入れられ、どのような役割を持つようになるのか」という形で「世の中」を中心に考えてみると、また違った視点を得られることに気づかされる。

「商品のサービス化」としてのメディア作り

あらゆる機能が1つのメディアの中で統合されていなかったとしても、ユーザーは自ら使いやすいメディアの組み合わせを考える可能性があるということである。

具体的には、テレビを見ながらスマートフォンでTwitterをすることを例にあげているが、製品一つがすべての役割を担えたとしてもユーザーは最も使いやすい手段を選択するというものである。
あらゆる機能を1つの製品で担おうと考えるのではなく、複数のツールを組み合わせて一つのサービスに仕上げる3次元的な考え方は不可欠であることに気づかされる。
「ヘルシア」の事例が紹介されているのだが、これは商品の付加サービスとしてのメディアを作り、ソーシャルメディアを活用するというもので、ウェブを使って新しい機能を付加したものだ。

「花王ヘルシア12週間健康チャレンジ」についていえば、「ヘルシア」という「商品」について、購入者が日々健康管理(体重、体脂肪や運動の記録を付けること)ができ、友人にもその状況を伝え(ある意味自分にプレッシャーをかけ)ることができる「サービス」をオリジナルに作り、それを提供するサイトを運営しているということになる。そして結果的に、ソーシャルメディアを使う必然性も導き出しているのである。

この考えに触れたときに、企業が自らのウェブサイトをどれだけ「サービス」として捉えることができているのだろうかという疑問が湧いてきた。当たり前といえばその通りなのだが、あらためて「サービス」としてウェブサイトを見つめ直す必要があるように思えた。
これは当然ウェブだけの話しではないだろう、企業が持つあらゆるチャネルをサービスとして捉え直しても良いのかもしれない。
他にもたくさん紹介したい部分があるのだが、果てしなく長文になってしまうので、このあたりにとどめたいと思う。紹介したのはごく一部であり、この他にも広告への考え方や、ソーシャルメディアをどのように理解するかなど、企業が消費者とのコミュニケーションをどのように考えるべきかのヒントがふんだんに盛り込まれている。
私は現在ウェブサービスを開発中なのだが、本書を読みながら度々プロモーションのアイデアに考えを巡らせた。プロモーションだけでなく、サービスとユーザーの接点の考え方、広告以外にサービスの外でのユーザーとの接点はどのようなものがあるか。などいろいろなことを考えながら読み進めていった。
なので、きっとウェブサービスを展開している人やこれから立ち上げる人にもヒントが詰まった本だと思う。
少しでも興味を持った方は、是非手にとってみてはいかがだろうか。おそらく後悔することはないだろう。

次世代コミュニケーションプランニング
ソフトバンククリエイティブ  著者:高広 伯彦  価格:1,680円  評価:★★★★★


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Author
Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。