「Appleが作ってるのはインスタントラーメン、僕らが作ってるのは一品料理」ソニーのキーパーソンの発言から見える日本メーカーの課題

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日経トレンディネットに掲載された、ソニーのオーディオ・ビジュアル製品のキーパーソンである金井隆氏へのインタビューが話題になっている。
該当個所はソニーにAirPlayに対応したラインナップがない理由を聞かれた際の回答だ。『Appleが作っているのは「インスタントラーメン」のような音で、自分たちが作っているのは「一品料理」だ』と発言している。

music

AVアンプに重点が置かれたインタビューの中での話なので、その文脈であることを考慮する必要もあるだろうが、これらの発言の中から、日本のメーカーが陥っている状況が見えてくるような気がした。
一部を引用する。
(12月10日追記:引用元記事の内容に大きく変更が加えられたようです。下記引用は元記事公開時のものです。)

AirPlayは便利だが、あくまでも利便性を追求したもので、音質的にはそれほど高くはないと金井氏は述べる。
「言ってみれば、僕らが作っているのはちゃんとした一品料理です。AirPlayというのは音も最高ではありません。例えばリニアPCMの音声を送りたいと思っても、アップルLosslessに変換して送ってしまいます。Losslessとは言いますが、結局は『圧縮を解いた音』なので、音質はそんなに良くありません。分かりやすく言えば“インスタントラーメンのような音”です。
インスタントラーメンもおいしいですけど、僕たちはこの機械でインスタントラーメンを作っているわけではありません。もしアップルがAirPlayの開発キットを提供してくれれば作りますが、現実にはB社にしか提供していません。ですから『できない』のです」(金井氏)
「iPhoneなどは、自分の持っているCDを全部持ち歩きたいという人のためのソリューションで、そのために圧縮もします。その全部持ち歩いている曲を手軽に扱えるのがAirPlayです。
(中略)
載せられるなら載せた方がいいですけど、載せられません。載せなくて何が悪いと思っていますけどね(笑)」
ソニーの巨匠が断言「オーディオはネットワーク経由で聴け!」

私は音の良さを聞き分ける自信があるわけではないが、ソニーが作る製品は実際に音が良いと感じているし、こだわり故に切り捨てる部分もあるのも理解はできる。しかし、このインタビューを通して感じたのは「ソニーにはユーザーのライフスタイルが思い描けているのだろうか?」ということだ。

Appleは新しい音楽の楽しみ方を生み出した

「1000曲をポケットに」というキャッチフレーズで登場した初代iPodが一気に普及していったのは何故か。それはライフスタイルの変化を生み出した点にあると思う。
ウォークマンが移動しながら音楽を聞くライフスタイルを生み出したのと同じように、Appleはそれをさらに進め、いつでもどこでも聞きたい曲が呼び出せる環境を作り出した。
それまでは外出前に聞く曲を選ぶ必要があったが、自分が持ってる音楽をiPodに取り込んでいけば、いま聞きたい曲をその場で選んで聴くことができるようになった。
これを実現するために重要だったのは、音の質ではなく、記憶容量や端末の大きさ、そしてパソコンからPCへのデータの転送速度や、モバイルでの操作性だった。
Appleは重要なポイントを理解していたといえるだろう。

音の良さ一辺倒なソニー

5年ほど前だっただろうか。iPodが圧倒的に普及する中、友人から相談を受けたことが印象に残っている。『家電量販店でiPodを見ていたら「ソニーの方が音がいいですよ」と勧められて迷っている』というのだ。失礼ながら、私は思わずそのとき吹き出してしまった。私がこの時にその友人に行ったアドバイスは「ソニーの方が音が良いのかもしれないけど、違いを感じられるか、聞き分けられるかどうかもわからない音質と引き換えに、いろいろな利便性を失うから絶対にやめたほうが良いよ」というものだった。
私が思わず吹き出してしまったのは「利用者にとって大事なのはそこではないだろう」という理由からだ。もちろん音質がトッププライオリティな消費者には受け入れられて評価されるかもしれないが、どんな製品でもそこそこの品質がある時代に、そんなニーズを持った消費者を探す方が難しいのではないか。せいぜい響く人の大部分は「音は良いにこしたことはない」と思っている人ぐらいだろう。先の友人もそれに該当する。
ソニーが音質を売りにし続けているのはそれから数年間続く。最近はどうなっているかわからないが、上記のインタビューから、それほど状況は変わっていないことが推測される。

「いい音」よりも気軽に「すぐに」聞けること

私自身も以前は、いい音が出せる環境で音楽は聞きたいと思っていた。だから家にはそこそこのアンプやスピーカーもある。しかしいまは考えが変わってしまって、アンプのスイッチをいれるのも面倒になってしまい、ほとんど使われない状態になっている。
聞きたいCDを探して、プレイヤーにかけて、アンプのスイッチを入れて、ソファーに座って音楽を聴く・・・。なんてことは最近はなく、iPhoneとスピーカーを直に繋げて再生するというのが最近のスタイルだ。AirPlayであればケーブル接続も必要ない。
いつでもでこでも聞きたい音楽を聞ける事をさっと聞けることのほうが、いまはずっと重要である。

メーカーはもっと現実にあるライフスタイルを見るべき

ソニーはどのようなライフスタイルをイメージしているのだろうか。音にこだわることはメーカーとして決して間違ったことではないが、ユーザーのいまのライフスタイル、さらには未来のライフスタイルを見据えた製品創りが出来ているのだろうか。
いまは家電製品も性能的には成熟期であるように思う。どんな製品でも一定の質はクリアしている。そこからさらなる付加価値をつけるために、人には聞こえない音域まで出力できるスピーカーを作ってみたりして、無駄に高い製品を作ったりしている。
シャープのプラズマクラスターが実は実際に効果がない製品だったというニュースも象徴しているように思う。
もはや重要なのは、ライフスタイルに沿って、トータルで優れた製品を提供できるかどうかであって、どっか一部だけ突出している製品ではないのではないだろうか。
日本製品は突出させるために、トータルで見るとに残念な仕上がりの製品が多いのではないか。
日本のメーカーには、ライフスタイルを見据えた製品開発をいま一度考えて欲しいものだと切に感じる。
Photo by Ed Yourdon on Flickr

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Author
Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。