孫正義×佐々木俊尚討論「光の道」の印象に残った部分まとめ

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ソフトバンクの孫正義社長(@masason)と、ITジャーナリストの佐々木俊尚氏(@sasakitoshinao)が13日、徹底討論「光の道は必要か?」と題し、USTREAMとニコニコ動画で対談の生中継をおこなった。

この日は20時から開始されたが、孫社長の「トコトン納得し合えるか決裂する迄時間無制限」という宣言通り、あらかじめ終了時間を決めずに5時間に渡って論戦が繰り広げられた。
USTREAMでは常時1万人が視聴し、最大時には1万3千人が視聴した。これにニコニコ動画の視聴者が加わった人々が討論を見守った。

この対談の経緯

原口総務大臣が打ち出した日本のメタル回線を全部光回線に変えようという「光の道」構想にソフトバンクの孫社長が政府案を支持することを表明したことに対し、佐々木氏が「ソフトバンクの「光の道」論に全面反論する」というブログ記事をCNETに掲載した。
それを見た孫社長がTwitter上で対談を佐々木氏に申し入れ、佐々木氏はオープンな場でやることを条件に受け入れ実現した。

目を見張ったのは孫社長の用意周到さと気迫

この日は、まずお互いに20分ずつプレゼンをしあい、その後は納得いくまで討論という形で展開された。
やはり特筆すべき点は、孫社長の用意周到さと気迫である。
孫社長が用意したプレゼン資料は佐々木氏への反論だけではなく、NTT(記事)池田信夫氏(記事)などへの反論も用意していた。
そして、あらかじめ段取りが組まれていたのではないかと感じるほど、佐々木氏が反論することに対して、「その資料も用意している」と次々と資料を披露した。(時折強引な面も見受けられたが)
そして、多くの時間で孫社長の熱弁が繰り広げられ、後半の気迫はすさまじいものがあった。
主張を簡単に述べると以下のようなものだ。
孫社長の主張
「6200万回線の固定回線を全て光に税金を1円も使わずに実現できる」
「しかもADSLの利用料よりも安い値段で光が使えるようになる」
「黒電話を使いたい人もそののまま使えるようにする」
「インフラもプラットフォームもコンテンツも全部不可欠」
佐々木氏の主張
「ブロードバンドが大事なのは異論ない」
「国費ゼロで実現できる保障があれば合意する」
「ただし、光が整備されれば日本のITが普及されるかの論調に疑問がある」
「重要なのはブロードバンドを利用して何をするかを語るべき」
「規制を撤廃し、市場を開放し、グローバル市場で闘うことが不可欠」
具体的な詳しい内容はほかの方の記事にお任せするとして、今回私が印象的に感じた部分を紹介させていただきたい。
光の道 テキスト中継ログ

できない理由ばかりをいう

何か新しいことをやるときに必ず現れるのが、出来ないことを列挙する人。
理想は共感していても、「こういう理由があるからできない」と出来ない理由を探して否定する。
そういったことに対し孫社長は言う
「ヴィジョンは強いリーダーシップ、誰かが強い思い込みを持たないと実現できない」
「ヴィジョンに同意するならば、どうすれば実現できるかのかを考えるべきである」
「国民もジャーナリストも非難するばかりではなくて、みんなで建設的に新しいプラットフォームを作るために検討するべきだ」
「どうやったら実現できるかを考えよう 」
これは共感である。できない理由を探してやらないのではなく、どうやったらできるかを考えることが非常に重要だ。問題はそのヴィジョンを実現すべきかであって。実現すべきであるならば、是非どうやったら実現できるかを考えるべきだ。

教育の専門家のふりをするつもりはない

孫社長の「教育の専門家のふりをするつもりはない」という言葉。
どういった教育をすべきかという話が展開されようとした中での発言だ。
これも何かを議論する上では重要な点であるように感じられた。議論するうえで自分の範囲以外のことまで手を伸ばしてしまうことがある。しかし、これは不必要な反論を招くことが常である。
孫社長はヴィジョンを示す役割を担い。自分がすべきことを明確に示している。

ソフトバンクが儲けたいだけなんじゃないか

佐々木氏もしっかりと踏み込んだ発言をしていた。
「インフラビジネスをやっている孫さんがあまりにもインフラが必要なことを強調することが、ソフトバンクが儲けたいだけだと思われるのではないか」
「インフラの話ばかりするのではなく、欠落したピースを埋めるための一大勢力をつくるべき」
「インフラばかりを強調するだけでなく、プラットフォームやコンテンツの整備の必要も訴えるべき」
佐々木氏もずいぶん突っ込んでくれたものである。この日、佐々木氏が孫社長から引き出していた発言には多くの約束が含まれている。
しかしこの一連の流れを見て感じたことは、孫社長はソフトバンクの利益につながるからこそ、「光の道」を支援するという側面はあるのかもしれない。ただ、それだけに注目してヴィジョンの是非を問うのはやはり筋違いであるとも感じた。
何故なら未来のあるべきヴィジョンを提示し、それを実現するために欠かせない1つが「光の道」であり、その理由をあらゆる視点から示しているからである。やはりこれには部分的な反論ではなく、総論で反論すべきであると思わされた。
孫社長が目指す「デジタル情報革命」。これを果たすための重要なピースということなのだろう。

両者納得の上で終了

最後は以下のやり取りで締めくくられた。
孫社長「今日の結論。私は前提条件として国費を1円も使わず、光の道を実現させる具体的方法論を、さらにこれから噛み砕いて訴状に挙げていく義務がある。それを有識者、国民、総務省、政治家が堂々とオープンな議論を高める」
佐々木氏「同意しました」
その後、現場に居合わせた人への質疑応答の時間が設けられた。注目の部分を紹介したい。

なぜそんなに国のことを熱く語れるのか

なぜそんなに熱く語れるのかを聞かれ、孫社長は「あんまりこういうことはいいたくないが」と付け加えたうえで、以下のことを涙ながらに語った。
孫社長「僕は本当に日本が好きなんです。いま日本に1億何千万人かの日本国籍を持った日本国民がいます。生まれながらにして日本国籍なんです。生まれながらにして日本人なんです。泣きたいほど、叫びたいほど望んで日本人になった人が何人いるんだ。」
「日本が好きで、自分が生まれた国を愛することが、なぜ恥ずかしいんだ。自分が愛するこの国の為に、何か少しでも貢献したい。どこにためらう理由があるんだ。」
そして、会場は拍手につつまれた。
孫社長が言うのだから、非常に説得力を持った言葉である。日本の未来の悲観論を語るばかりの人間よりは、どうすれば日本の未来が開けるのかを語る人間のほうがよっぽど素晴らしいと考えさせられた。
その部分のハイライト「光の道」Part3 39.18~44.09

iPadのSIMロックについて語る

「国民の利便性という観点からいってiPadのSIMロックを解除すべきだという考えがあるがどう思うか?」という質問に対して回答した。
孫社長「docomoとauは800Mhzの周波数帯が割り当てられており、ソフトバンクが使用している周波数帯の4倍のカバーエリアがあるのが800Mhzである。現在は少なくとも公平な競争環境下におかれていない」
「ハンディキャップを背負っている部分は別の武器で戦う必要がある。iPhoneやiPadはいまソフトバンクが持っている武器であり、いまはまだ戦いの途中であることを理解してほしい」と述べた。
これはとても正直な回答なのではないだろうか。よく言ってくれたものだと感心した。
3月末時点の各社の携帯契約数はdocomoが5608万件、auが3187万件、softbankが2187万件である。
iPhone、iPadのSIMロックが解除されれば、Softbankはこの順位を逆転することは相当な困難を要することは安易に想像できる。いまのSoftbankにはSIMロック付きのiPhone、iPadが必要不可欠なのは当然のことであろう。
Softbankが苦労して手に入れた武器。それを守るためのSIMロック。これはきれいごとではない事実なのだろう。現在docomo、auのユーザーにとっては到底納得できない話しではあるだろうが、正面からの反論であった。
その部分のハイライト「光の道」Part3 50.01~65.12

USTREAMのアーカイブはすべて閲覧できる

番組のアーカイブはすべてソフトバンクのチャンネルにアーカイブとして保存されている。
ただし、3日後以降にPTFliveチャンネルに移動する可能性があるようだ。

孫社長のこの日の資料も公開した。(PDF)
それにしても5時間熱弁を続けた孫社長の熱意はすごいものがあった。しかも、今回の一連の流れはソーシャルを巻き込んだ議論である。ここまで公に視聴者にわかるように語られた例はいままでにはなかったことなのではないだろうか。あらためて、孫社長、佐々木氏の両名に敬意を示したい。
この議論の行く先には今後も注目していきたい。

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Author
Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。