電子書籍はウェブと同じ道をたどるのか?

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KindleやiPadの登場で電子書籍が話題になり、度々議論も交わされているようです。やはり気になるのは、電子書籍リーダーの本格的な日本展開の後に何が変わるのか。
どうも電子書籍の今後の展開を考えていると、ウェブが辿った道を繰り返すのではないだろうかということが頭をよぎります。

その1;出版の敷居が極端に低くなりライターが大量に誕生する

現状、一般的に本を出すことはとても敷居が高いものです。その敷居の高さが、ある意味一定の質を担保しているともいえると思います。
レベル感は違えど、ウェブも10年前は誰でも作れるという代物ではなく、一部のコンピューターが得意な人だけの専売特許になっていました。(コンテンツ作りの素人が多かったのは重要な相違点ですが・・・)
しかし、いまはブログがありますので、特に知識がない人でも誰でも自分のサイトを持つことができ、ほとんど敷居がない状態です。その為、総務省の発表によると、2009年1月末時点のブログ登録者数は、約2,695万人にものぼります。
結局のところ、敷居が低くなればなるほど作成者が増え、特に目的やコンテンツの質を問われることもなく、誰でも気軽に自分のサイトを持つようになります。
電子書籍も今後どんどん敷居が下がり、誰でも内容を問うことなく作ることができるようになります。

その2:電子書籍は本をそのまま電子化するだけである必要はない

現状のいわゆる電子出版は紙の本の体裁で電子データを出版するものと定義したいところですが、デジタル化した以上可能性は広がり、動画や音声が可能になるという話が度々話題にのぼっています。
単純に本が電子データになるだけである必要はないというのは、確かにその通りだと思いますし、デジタル化によるメリットを最初から狭める必要はないと思います。
でも、ここで考えてしまうのは、そもそも本の良さってなんだろうということです。
これだけネットが浸透した現代においても本は「本を読んでるなんて古くさいよね」と感じる人はほぼ皆無だと思います。
本は現状のままでも十分に魅力的なものであることは間違いがありません。
ウェブサイトも最初はユーザーの通信速度や、現在の携帯のようにデータ通信をすればするほど課金する仕組みであったこともあり、テキストデータが主体で、軽量な画像が気持ち程度に付加されるような構成でした。
しかし、通信環境の発展に伴い動画や音声がウェブサイトに用いられるようになりました。
そこで度々問題になるのが、過剰な演出です。ユーザーに本来の目的とは関係ない作り手側の都合に無駄な時間を費やされることも出てきます。

そしてどのような状況が生まれるのか

ここで大きく2つの状況が考えられます。

  1. 電子書籍が現状のブログのように氾濫し、コンテンツとしての質が低いものが大量に発生する。それに伴い良質な書籍を販売しても著名な人でもない限りは多くのその他の書籍に埋もれてしまう。
  2. 本の内容はいいのに、不要な演出や音声でもったいない作品が生まれてしまう。動画や音声を使うことによって、コストが重くのしかかり、黒字が生まれない書籍が生まれ動画を使うと失敗するという話しが出てくる。

電子書籍には強烈なロングテールが生まれる

現状のブログを考えればわかるように、内容にはかなりのばらつきがあるブログが乱立しています。なかには宣伝だけが目的なサイトや、著作権を無視した違法コピーを行っているサイトさえあります。
ブログではアルファブロガーといって、影響力のある有名なブロガーが誕生していますが、書籍の世界で言えば、人気作家がそれにあたるでしょう。
すでに自身のファンを持っている人がいれば問題はありませんが、その他の良質な書籍をどのようにユーザーに届けるかが1つ重要なポイントになってきます。
1つはGoogleのような優れた検索エンジンが必要になりますし、もう1つは注目の本を紹介する役割をになうポータルサイトが必要になってきます。
現状だと、AmazonやAppleがその役割を担いますが、基本的には売れている本しか表面化してこないため、第2の役割を担う存在が必要になります。
もう一方で違法コピーされた書籍などがいかにしっかりと取り締まることができるかは今後の大きな課題になると考えられます。

動画、音声は使う際に考えるべきこと

本当に求められているものはなにか?ということは絶対に忘れてはならないことだと思います。
ウェブサイト制作の際にもよく語られることですが、ユーザーが訪れる多くの目的は情報の取得のためです。そこをおざなりにしたデザインや演出は作り手側のエゴでしかなく、ユーザーの貴重な時間を無駄に費やさせるだけでなく、そのサイトへの印象も悪くなりかねません。
果たして本に動画や音声が求められているのか?動画や音声を作る以上はその分、文字情報だけの場合よりもコストがかかります。
確かに動画があると便利な本は考えられます。例えば料理のレシピに動画がつけば非常にわかりやすいかもしれません。ただ、問題はユーザーが支払う対価に見合うコンテンツを提供する必要があるということです。もちろん競合としてDVDやらテレビとの差別化も考えなくてはなりません。ユーザーのニーズはしっかりと確認する必要があります。
ユーザーがどの程度の価格で、どのようなコンテンツを、どのようなシチュエーションで求めているかは冷静に考える必要があります。

これから必要になるもの

これまでの話しから必要になるものを考えてみます。

  1. 優秀な編集者
    編集者というよりはコンサルティングに比重が高まるかもしれませんが、どのような書籍をどのように作っていくかをマネージメントする人が必要です。本の経験に加えて電子書籍の特性を的確に把握していることが求められる人材になると思います。電子書籍に特化した編集者というふれこみで新規に参入してくる人も多く出てくると思います。
  2. いわゆるポータルサイト
    探している本を的確に見つけられるポータルサイトはさらに重要になってきます。音楽の試聴と違い、少し読んだぐらいでは良書かどうかわかりづらい本だからこそ、売れているだとか、誰かが進めてくれるということが重要になってきます。うまく機能したサイトが登場すれば、かなりの需要が見込めると考えられます。

電子書籍は多くの人にチャンスを与える、素晴らしい可能性に満ちあふれていると思います。表面化されるべき書籍、淘汰されるべき書籍など様々なものが生まれていくと思いますが、適切な環境を早急に整えつつ、電子書籍市場が盛り上がっていく枠組みがしっかりと形成していくことも新しい文化を作るためには重要であると考えています。

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Author
Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。