マーティン・スコセッシが娘に書いた公開手紙全文翻訳 ー 「映画の未来は明るい」

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「タクシードライバー」「グッド・フェローズ」「カジノ」など、数々の名作を生み出したマーティン・スコセッシ監督が、14歳の娘フランチェスカさんに送った公開手紙が話題になっている。
71歳を迎え、「映画はあと2、3本くらいだろう」と語ったばかりのスコセッシ監督が、映画の現在と未来について、そして人生において大切なことについて語った。

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今回は手紙の全文を翻訳したので共有したい。原文はこちらで確認できる。より最適な訳し方があれば是非助言して頂きたい。


最愛なる フランチェスカへ
私は未来についてあなたにこの手紙を書いています。私は私の世界のレンズを通して未来を見ています。つまり私の世界の中心である映画のレンズを通してです。
私がこの数年間に気づいたことは、私が少年の時にあった映画に関する考え方、子供だった頃からあなたに見せてきた映画の中にあった考え方、私が映画を撮り始めた頃に一般的だった考え方が終わろうとしていることです。
すでに製作された映画について触れているのではありません。これから製作されるであろうものについて言及しているのです。
私は絶望しているわけではありません。これらの言葉を敗北の気持ちで書いてはいません。反対に未来は明るいと考えています。
私たちは、映画がビジネスだということ、ビジネスとして成立するからこそ映画による芸術が可能だったことを常に理解していました。60年代や70年代にこの世界に入った者で、そうした面で何らかの幻想を抱いている者は一人もいません。愛するものを守るため一生懸命に働かなくてはならないことは分かっていました。多少は大変な時をくぐり抜ける必要があるかもしれないことも理解していました。そして、ある段階において私たちは、映画製作プロセスのあらゆる不都合または予測不可能な要素が最小化され、それどころか除去されるときに直面するかもしれないことに気づいていたのかもしれません。最も予測不可能な要素とは何でしょうか。映画です。それから映画を作る人たちです。
非常に多くの人たちが言ったり書いたりしていることやビジネスにおけるあらゆる困難について、ここで繰り返すつもりはありません。そして、私は映画製作の全体的なトレンドの中の例外に勇気づけられています。ウェス・アンダーソン、リチャード・リンクレイター、デヴィッド・フィンチャー、アレクサンダー・ペイン、コーエン兄弟、ジェームズ・グレイ、ポール・トーマス・アンダーソンたちは皆、すべてを管理して映画を製作しています。そして、ポールは『ザ・マスター』を70mmで撮影したのみならず、いくつかの都市では70mmで上映することに成功しました。映画のことを気にかける者の全員が感謝しなくてはなりません。
また、フランスで、韓国で、イギリスで、日本で、アフリカで、世界中で映画を撮り続けているアーティストたちにも感銘を受けています。ますます困難になっていますが、彼らは映画を撮りきっています。
しかし、映画の芸術と映画ビジネスがいま岐路にあると私が言うことに関して、悲観的だとは思いません。音声と映像のエンターテイメント、映画と呼ばれるもの、すなわち個人が構想した動く映像は、さまざまな方向へと向かっているようです。私たちが映画と呼んでいるものが将来、大きな映画館のスクリーンで見られることがますます少なくなり、小さな劇場、オンライン、それから私には想像もつかない空間と環境で見られるようになるのかもしれません。
では、未来はなぜ明るいのでしょうか。なぜなら、この芸術表現の歴史の中で本当に初めて、映画は非常に少ないお金で製作できるようになるからです。こんな話は、私が少年の頃には考えられないことでした。非常に低予算な映画は常に例外でした。今やそれが反対になりました。手頃な価格で美しい映像を撮ることができます。音声を録音できます。家で編集して、ミキシングして、色補正ができます。それら全部が可能になるのです。
しかし、映画作りにおいてこの革新をもたらした映画製作の機械と技術の進歩に関心を向ける一方で、覚えておくべき大切なことが一つあります。映画を作るのはツールではなく、人だということです。カメラを手にして、撮影して、Final Cut Proで編集するのは簡単です。映画を作るということ、あなたが作る必要があるものは他の何かです。そこに近道はありません。
私の友人であり師でもあったジョン・カサヴェテスが今日もし生きていたら、利用できるツールを全て使ったことは間違いありません。しかし、彼が常に言っていたことをいまでも言うでしょう。「仕事に心から打ち込まなければならない、自分の全部を捧げなくてはならない、そもそもあなたを映画作りに駆り立てた閃きを守らなくてはならない。命を賭けて閃きを守らなくてはならない。」これまでは映画作りにとてもお金がかかったために、消耗と妥協から守らなくてはなりませんでした。これからは別のことに対して気を引き締めなくてはなりません。流れに身をまかせたい誘惑に逆らって、映画が流れ去ってしまうことを防がなくてはなりません。
これは映画だけの問題ではありません。何事にも近道はないのです。すべてが難しくあるべきだと言っているのではありません。あなたを鼓舞するのはあなた自身の声であると言っているのです。それは、クエーカー教徒も言っている内なる光です。
それはあなたです。それは真実です。
すべての愛を。
父より

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Author
Web制作会社にデザイナー、ディレクターとして従事後、フリーを経て、現在は株式会社プレイドに所属。